彼女が喜ぶであろうことはしてきたつもりだ。
通勤途中も、仕事の時も、食事の時も、歯を磨くときも、寝るときも。
生きるための日常の全ての時間において、僕の頭の中には彼女がいた。
デートの時は彼女も笑顔で僕も笑っていた。
二人でいる空間は二人がいるというだけで、
ディズニーランドよりも夢の国のように思えた。
僕は彼女にもっと愛情を捧げようと思った。
常に彼女のことを考えていたので、彼女の趣味趣向は完全に把握していた。
彼女の声や表情で彼女が考えていることも手に取るようにわかった。
二人の交際が長くなると、彼女が望むことを叶えるのが僕の役目のようになっていた。
ある日、彼女は落ち込んでいた。
黙っていた彼女を見て察した僕は彼女に伝えた。
「今までありがとう」
しばらく沈黙が続いたあと彼女は泣きながら「ごめん」と言った。
僕は「うん」と答えて彼女を残したまま歩き出した。
歩きながら考えていると僕の何がいけなかったのかわかった。
僕は彼女を愛することに全力を尽しすぎて、
彼女が僕に愛情をそそぐ隙を与えなかった。
僕は僕が彼女を愛することを優先しすぎていた。
あたえるだけが恋でもない。
彼女のことは全て理解しているつもりで、
彼女に与えてき僕の好意は押し売り以外のなにものでもなかった。
これでもか、これでもかと押し寄せる波のように。
続けざまに彼女の心を削っていた。
僕の愛が、彼女に重荷になって
彼女が背負う重みを軽くしてあげようと
さらに彼女に重しを乗せていた。
愛することが愛されることだと思っていた。
レストランで次から次と料理が運ばれてくる。
どれも美味しそうで大好きな料理ばかりだけど
食べてる最中に次の料理が目の前に並ぶ。
やがてテーブルがいっぱいになり
料理も飲み物もデザートも置く場所がなくなった。
料理を運ぶ僕が彼女が食べるのを待っていると
料理を口に運ぶ彼女の手が止まった。
彼女は食べかけの料理の皿に
ナイフとフォークを置くと席をたった。
行過ぎたサービスは客の負担でしかない。
少し足りないぐらいが丁度良い。
↓あわせて読みたいお勧め記事